1824年、第12代将軍・家慶の四男として江戸城で生まれます。たくさんいた兄弟たちが次々と病気で亡くなってしまう悲しい運命の中、唯一生き残った彼が次の将軍になる約束をされました。しかし、家定自身も生まれつき体がとても弱く、常に病気と隣り合わせの過酷な日々を送っていたのです。「このひ弱な子に江戸幕府を任せて大丈夫なのか?」と周りの大人たちはハラハラ。プレッシャーと孤独に耐えながら、大奥で静かに成長していきました。
成長した家定を苦しめたのは、体の弱さだけではありませんでした。脳性麻痺などの重い障害があったと言われ、言葉をうまく話せず、人前に出ることを極端に嫌がったのです。そんな彼の姿を見た野心メラメラの大名たちは、「次の将軍は暗愚(バカ)らしいぞ」と冷酷なウワサを流し始めます。誰にも心を開けない孤独な毎日。しかし、不自由な体に閉じ込められた彼の瞳の奥には、周りの大人たちを冷ややかに見透かすような鋭い光が宿っていたと言われています。
1853年、日本中を恐怖のどん底に突き落とす事件が起きます。アメリカから黒船がやってきたのです!「国を開け!」と大砲を突きつけられる未曾有の大ピンチの中、お父さんの家慶が急死。この最悪のタイミングで、病弱な彼は第13代征夷大将軍の座に押し上げられてしまいました。日本の運命という重すぎる責任が、孤独な青年の一身にドカーンと乗しかかります。開国するか、戦うか。世界史の巨大な波が、ついに江戸城の扉をこじ開けようとしていました。
将軍になったばかりの家定をサポートした老中・阿部正弘(あべ まさひろ)は、強大な軍事力を持つアメリカと戦争になるのを避けるための道を必死に探ります。そして1854年、再びやってきたペリーの強い要求に折れる形で、幕府はついに日米和親条約を結びました。静岡県の下田と北海道の箱館(函館)の港を開き、初代の家康から約200年も守り続けてきた「鎖国」のルールがついに終わったのです!しかしこれは、血みどろの幕末のほんの始まりに過ぎませんでした。
外国への対応でテンテコマイの中、幕府の内部でも「将軍継嗣問題(しょうぐんけいしもんだい)」という大ゲンカが爆発します!病弱な家定には子供ができなかったため、「次の将軍を誰にするか」で大名たちが真っ二つに割れてしまったのです。頭の良さで有名な一橋慶喜(ひとつばし よしのぶ)を推すグループと、血筋の近さを理由に徳川慶福(よしとみ)を推すグループが激突!お城の中は、家定の跡継ぎの座をめぐる大人たちのドロドロの権力争いで修羅場と化してしまいます。
跡継ぎ争いが激しくなる中、薩摩藩(鹿児島県)から一人の美しい女性がお嫁にやってきます。大河ドラマでも有名な篤姫(あつひめ)です。彼女の本当のミッションは、「一橋慶喜を次の将軍にしてね」と夫の家定を説き伏せることでした。政治の道具としてお嫁に来た勝気な篤姫と、誰にも心を開かない孤独な家定。不思議な政略結婚で結ばれた二人でしたが、大奥で一緒に過ごすうちに、少しずつお互いの心を通わせていったとも言われています。
幕府の中が真っ二つに割れて崩壊しそうになる中、家定は最後の切り札を出します。「南紀派」のトップであり、「井伊の赤鬼」と恐れられていた彦根藩主の井伊直弼(いい なおすけ)を、政治の最高責任者である「大老」に大抜擢したのです!家定から全てのパワーを任された直弼は、反対する人たちを力ずくでねじ伏せる独裁政治をスタートさせます。この恐ろしい赤鬼の登場が、のちに日本中を血の海に沈める大事件を引き起こすことになるとは、誰も知る由もありませんでした。
井伊直弼という最強のバリアを手に入れた家定は、ついに自分の意思をズバッと発表します。奥さんの篤姫たちの必死の説得を冷たくハネ除け、次の将軍を従弟の徳川家茂(いえもち/慶福)に決定したのです!「ダメな将軍」とバカにされ続けてきた彼が、天才の一橋慶喜を拒否し、徳川の血筋の正しさを意地でも守り抜いた瞬間でした。敗北した一橋派は深い絶望に沈み、跡継ぎ争いはついに決着。しかし、将軍が最後の力を振り絞ったこの決断には、さらなる過酷な運命が待っていました。
跡継ぎが決まった直後、外交問題もクライマックスを迎えます。1858年、アメリカのハリスからの強い圧力に負けた井伊直弼が、天皇のOK(勅許)をもらわないまま、勝手に日米修好通商条約にサインしてしまったのです!日本が損をする不平等条約を、天皇を無視して結んだ幕府の横暴に、全国の武士たち(尊王攘夷派)がブチギレて大激怒!幕府への憎しみは決定的なものになりました。国を揺るがす大ピンチの中、家定の命の火はすでに消えかかっていたのです。
条約のサインと跡継ぎ決定という大激動の直後、1858年の夏に家定は突然病気で倒れ、そのまま34歳の若さで亡くなってしまいました。あまりにも都合の良いタイミングでの急死だったため、「負けた一橋派に毒殺されたのでは?」という黒いウワサが流れたほどです。最後まで自分の殻に閉じこもり、時代の巨大な波に命をすり減らした孤独な将軍。彼の死を合図に、日本は「安政の大獄」から幕府崩壊へと続く、血塗られた激動の幕末へと猛スピードで突き進んでいくことになります。