常温で唯一の液体である、不思議でミステリアスな金属です。他の金属を溶かして合金を作る性質があり、昔は大仏の金メッキや体温計に使われました。毒性があるため現在は日用品から姿を消しつつありますが、その独特の重くて滑らかな動きは、今も多くの人の好奇心を惹きつけます。
元素記号Hgはギリシャ語の液体の銀が由来。英語名のマーキュリーは、コロコロと素早く転がる様子から、ローマ神話の俊足の神や動きの速い水星と同じ名前が付けられました。
すべての金属元素の中で、唯一室温でドロドロの液体になります。原子の構造上、電子が特殊な動きをして原子同士がくっつく力が弱まる相対論的効果という理論で説明されます。
金や銀などを溶かしてアマルガムという合金を作る性質があります。奈良の大仏に金を塗る際にも、水銀に金を溶かして塗り、後で火で炙って水銀だけを蒸発させる技術が使われました。
温度によって体積が正確に膨張・収縮するため、昔の体温計や血圧計の管の中には水銀が使われていました。現在は安全性の問題から、デジタル式やアルコール式にほとんど置き換わっています。
水銀の蒸気は脳や神経を破壊する猛毒です。19世紀のヨーロッパでは帽子のフェルト処理に水銀を使い、職人が精神を病む事件が多発。不思議の国のアリスの帽子屋のモデルとも言われます。
蛍光灯の管の中には微量の水銀ガスが入っています。電気が流れると水銀ガスが目に見えない紫外線を放ち、それが管の壁の蛍光塗料に当たって明るい白い光に変わるという仕組みです。
硫黄と水銀が結びついた硫化水銀は、非常に美しく鮮やかな赤い顔料になります。魔除けの力があるとされ、古くから神社の鳥居の朱色や書道で使う朱肉の材料として使われてきました。
古代中国では水銀はその神秘的な姿から不老不死の薬と信じられ、皇帝たちが飲んで命を落としました。始皇帝の巨大な陵墓の地下には水銀で作られた海や川が流れているという伝説があります。
大きな容器に入れた水銀をコマのように回転させると、遠心力で表面が完璧なお椀型の鏡になります。これを利用して歪みのない超巨大な天体望遠鏡が作られ、宇宙の深淵を観測しています。
銃弾を受けても穴が塞がり、自在に形を変えて迫り来る映画ターミネーター2のT-1000型サイボーグ。あの絶望的で冷酷な液体金属のビジュアルと動きは、水銀の不気味な性質が強力なモチーフです。