地球を包む空気の約78パーセントを占める、無色透明で無味無臭の気体です。普段はとてもおとなしく他の物質と反応しませんが、植物が育つための肥料や、爆薬の原料にもなる極端な二面性を持っています。スナック菓子の鮮度を守るのにも大活躍しています。
ドイツ語で息を詰まらせる物質と呼ばれたのが日本語の窒素の語源です。酸素と違って呼吸を助ける働きがないため、ネズミを入れると窒息して倒れてしまう実験から名付けられました。
ポテトチップスの袋がパンパンに膨らんでいるのは、中に窒素ガスが充填されているからです。酸素を追い出すことで油の酸化や劣化を防ぎ、さらにクッションの役割をして中身が粉々に砕けるのを防いでいます。
かつて人類は食糧危機に直面していましたが、空気中の窒素から化学肥料(アンモニア)を作り出すハーバー・ボッシュ法が発明されました。これにより農作物の収穫量が爆発的に増え、世界の人口を支えました。
普段はとても安定している窒素ですが、無理やり他の原子と結びつけると、元の安定した気体に戻ろうとする時に凄まじいエネルギーを放出します。ダイナマイトやニトログリセリンなどの強力な爆薬の主成分です。
液体窒素はマイナス196度という極低温です。バナナをカチカチに凍らせて釘を打つ実験でおなじみですが、医療機関での細胞や血液の冷凍保存や、最先端の超伝導リニアモーターカーの研究などに欠かせません。
レーシングカーや飛行機のタイヤには、普通の空気ではなく純粋な窒素ガスが入れられています。温度が上がっても膨張しにくく、タイヤのゴムを通り抜けて空気が抜けにくいため、安全で安定した走行を保てるからです。
空気の8割を占めるため原料はタダ同然ですが、不純物を取り除いて純粋なガスや液体にするための電気代がかかります。それでも1リットルあたり数十円程度と非常に安価で、工業用の冷却材として大量に使われます。
炭素や酸素と同じく、窒素も生命に欠かせない元素です。私たちの細胞の中にあるDNAの塩基(情報を記録している部分)は窒素を含んでおり、これが生命の設計図の文字として機能し、命を次世代へと繋いでいます。
深海に潜ると水圧で空気中の窒素が血液に溶け込み、お酒に酔ったように判断力が鈍る窒素酔いという危険な状態になります。そのため、プロのダイバーは窒素の代わりにヘリウムを混ぜた特殊なガスを吸っています。
地球以外で窒素が主成分の分厚い大気を持つ珍しい星が、土星の衛星タイタンです。SF作品などでは、地球に近い大気環境を持つこの星が、人類の未来の移住先や宇宙基地の候補としてしばしばロマンチックに描かれます。