非常に熱に強く、鉄に少し混ぜるだけで信じられないほどの強度と粘り強さを与える頼もしい金属です。過酷な環境で動く車のエンジン部品や、巨大な橋の建設に欠かせません。人体にとっても微量ながら必須のミネラルであり、工業から生命活動まで幅広く支えている縁の下の力持ちです。
ギリシャ語で鉛を意味するモリュブドスが語源です。見た目が鉛の鉱石にそっくりで、長い間同じものだと勘違いされていたため、そのまま鉛っぽいものという意味で名付けられました。
二硫化モリブデンは非常に滑りやすい性質を持ち、黒い粉末状の潤滑油として使われます。高温でも焼け付かないため、自動車のエンジンや重機の歯車を摩擦から守る最強のバリアです。
第一次世界大戦の時、ドイツ軍は巨大な大砲の部品にモリブデン鋼を使いました。熱で変形せず、凄まじい爆発に耐えられるため、遠くまで正確に砲弾を飛ばす驚異的な兵器を生み出したのです。
鉄にクロムとモリブデンを混ぜたクロモリ鋼は、非常にしなやかで折れにくい究極の合金です。プロ用のロードバイクの細くて美しいフレームに採用され、独特の乗り心地の良さで愛されています。
昔の白熱電球の中で光るタングステンの細い糸を、熱で垂れ下がらないようにしっかりと支えているのがモリブデンの線です。高温の過酷な環境に耐えるタフさが買われました。
鉄鋼を強くするイメージが強いですが、実は人間の体内でも大活躍しています。食べ物を消化したり、有害な物質を分解したりする酵素の働きを助けるため、豆やレバーから摂取する必要があります。
植物の根にいるバクテリアが空気中の窒素を植物が使える形に変える時、モリブデンを含む酵素が使われます。農業の根本を支え、地球上の生命がタンパク質を作るための重要な元素です。
合金用の需要が極めて高いため世界中で大量に採掘されており、1グラム数円から数十円と比較的安価です。かつては戦争のたびに軍需物資として価格が高騰したという、血生臭い歴史もあります。
鎌倉時代に作られた名刀の中には、偶然にもモリブデンを含む砂鉄で作られたものがあり、それが名刀の凄まじい切れ味と折れにくさの秘密だったのではないかという、歴史と科学のロマンがあります。
巨大ロボットが登場するSF作品では、機体が激しく動く際の関節部の摩擦を防ぐため、モリブデン系の特殊な潤滑システムが採用されているというマニアックな設定が語られることがあります。