サビに強く美しい銀色に輝く金属で、身近な50円玉や100円玉の材料として毎日手にする元素です。鉄と混ぜることで最強の錆びない金属ステンレス鋼を生み出し、現代社会のインフラからキッチンのシンクまで、水回りの清潔さを根底から支え続けています。
ドイツの鉱山で銅によく似た赤い鉱石が見つかりましたが、何度溶かしても銅が取れませんでした。怒った鉱夫たちが悪魔のオールド・ニックの仕業だと呼んだことから、ニッケル(悪魔の銅)と名付けられました。
日本の50円玉や100円玉は、銅とニッケルを混ぜた白銅という合金で作られています。ニッケルを少し混ぜるだけで銅の赤茶色を打ち消して美しい銀色に変え、さらに硬くてサビにくい丈夫な硬貨になります。
鉄にクロムとニッケルを混ぜると、私たちが毎日使うスプーンやシンクの材料であるステンレス鋼になります。ニッケルを加えることで、よりサビに強く、薬品にも耐えられる最高クラスの金属に生まれ変わるのです。
宇宙から落ちてくる鉄隕石(隕鉄)には、必ず数パーセントから数十パーセントのニッケルが含まれています。大昔の刀鍛冶たちは、この宇宙から飛来した天然の合金を使って、絶対に折れない伝説の剣を作りました。
ニッケルとチタンを1対1で混ぜた合金は、グチャグチャに曲げても熱を加えると元の形に戻るという形状記憶合金になります。女性のブラジャーのワイヤーや、メガネのフレームなど、見えないところで大活躍しています。
鉄や真鍮がサビるのを防ぐため、表面にニッケルを薄くコーティングするニッケルメッキが広く使われています。ピカピカに美しく仕上がるだけでなく、非常に硬くて傷がつきにくいため、工業製品の基本技術です。
昔から乾電池の材料でしたが、現在は電気自動車(EV)の高性能なリチウムイオン電池に大量のニッケルが必要です。需要が爆発的に増えているため、1グラム数円程度ですが、世界中で争奪戦が起きています。
ネックレスや時計の裏蓋で肌が赤くかぶれる金属アレルギー。その原因の多くはニッケルです。汗で溶け出した微小なニッケルイオンを人間の免疫システムが外敵だと勘違いして、過剰な攻撃を仕掛けることで起こります。
地球のドロドロに溶けた中心部分(外核)は鉄とニッケルでできています。比重が重いため、地球が誕生した時にドロドロのマグマの中を沈んでいき、中心に集まって巨大な金属のコアを形成したと考えられています。
蒸気機関が発達した世界を描くスチームパンクの世界観では、真鍮の金色と並んで、ピカピカに磨かれたニッケルメッキの銀色のパイプや歯車が、レトロでメカニカルな美しさを演出する重要な要素として描かれます。