鉄を驚くほど硬くする性質があり、ブルドーザーの刃やショベルカーなど、過酷な環境で働く重機のパーツに欠かせません。乾電池の材料としても古くから親しまれてきました。深海の底にはマンガンの塊が無数に転がっており、未来の資源として世界中から熱い視線を浴びているロマンチックな元素です。
ギリシャのマグネシア地方で採れた黒い石から発見されたため、ラテン語のマグネシアがなまってマンガンと呼ばれるようになりました。同じ場所の白い石から見つかったマグネシウムとは、名前のルーツが全く同じ兄弟です。
昔から時計やリモコンに入っている黒いやつ、マンガン乾電池の正体です。プラス極の材料として二酸化マンガンがたっぷり詰まっており、休み休み使うと少し電圧が回復するという、地味ですが非常に長持ちする頼れる電池です。
鉄に約12パーセントのマンガンを混ぜたハドフィールド鋼は、衝撃を受けると表面だけがカチカチに硬くなるというドMな性質を持ちます。戦車のキャタピラや金庫、ショベルカーの爪など、激しくぶつかる場所に最適です。
ハワイ沖などの深さ5000メートルの海底には、マンガンやレアメタルが何百万年もかけてボール状に固まったマンガン団塊というジャガイモのような塊が無数に転がっています。未来の資源として世界中で海底探査が進んでいます。
植物が太陽の光を浴びて水から酸素を作り出す光合成。その水を分解して酸素を引き剥がすという超重要な化学反応の中心には、必ずマンガン原子のクラスターが存在しています。地球の酸素はマンガンのおかげで作られています。
普通のガラスには鉄分が混ざっているため、断面が少し緑色に濁ってしまいます。そこに少量のマンガンを混ぜると、化学反応で打ち消し合って無色透明で綺麗なガラスになります。古代ローマのガラス職人もこの技を知っていました。
人間の体にも微量ながら絶対に欠かせない必須ミネラルです。骨の形成を助けたり、体の中で様々な化学反応を起こす酵素のスイッチを入れたりする働きがあります。お茶やナッツ類に多く含まれているため、不足することは稀です。
製鉄所で鉄を強くするためだけでなく、鉄に含まれる有害な硫黄成分を取り除くためにも大量に消費されています。安価で使い勝手が良いため、鉄鋼業界を裏で支える縁の下の力持ちとして、1グラム数円程度で大量取引されます。
フランスのラスコー洞窟などにある何万年も前の古代の壁画には、黒色を描く顔料として二酸化マンガンが使われていました。燃え残りの木炭とは違い、年月が経っても色あせないため、古代の芸術を現代まで鮮やかに伝えています。
近未来を舞台にしたSF小説などでは、地上の資源が枯渇した人類が、海底に眠るマンガン団塊などのレアメタルを求めて深海に巨大な採掘基地を作り、国家間や企業間で激しい利権争いを繰り広げるというリアルな設定が描かれます。