鉄に混ぜることで決して錆びないステンレス鋼を作り出す、現代のキッチンや建築に欠かせない金属です。メッキをすると鏡のように美しく輝きます。さらにルビーの情熱的な赤やエメラルドの深い緑色を生み出す原因でもあり、私たちの身の回りの色彩を華やかに演出する芸術家のような元素です。
ギリシャ語で色を意味するクロマ(chroma)が語源です。クロムが他の元素と結びついた化合物は、赤、黄、緑など絵の具のように非常に鮮やかで多彩な色を作り出すため、発見者がその美しさに感動して名付けました。
鉄にクロムを10.5パーセント以上混ぜると、表面に目に見えない極薄の保護膜が作られ、水に濡れても全く錆びなくなります。これがステンレス鋼であり、スプーンやシンクなど、水回りの清潔さを根底から支えています。
車のバンパーや水道の蛇口、高級なボールペンなどが鏡のようにピカピカと銀色に輝いているのは、表面にクロムメッキという薄いコーティングが施されているからです。見た目が美しいだけでなく、傷がつきにくくなります。
真っ赤なルビーも、新緑のようなエメラルドも、元々は無色透明な別の鉱物です。そこにクロムがほんの少しだけ不純物として紛れ込んだ結果、光の吸収具合が変わり、あの最高級の美しい宝石の色が魔法のように生まれます。
ステンレスやメッキに使われる金属クロムや三価クロムは無害ですが、六価クロムという状態になると、皮膚を溶かしガンを引き起こす恐ろしい猛毒になります。映画エリン・ブロコビッチでも公害問題として描かれました。
安全な三価クロムは、人間が健康に生きていくために微量ながら絶対に欠かせない必須ミネラルです。血液中の糖分をコントロールするインスリンの働きを助けるため、海藻やブロッコリーなどから摂取する必要があります。
昔の音楽録音用カセットテープには、二酸化クロムの磁性粉が塗られたハイポジション(クロムテープ)という種類がありました。普通のテープよりも高音がクリアに録音できるため、音楽ファンにとても愛されていました。
ステンレスを作るために世界中で膨大な量が消費されています。価格自体は1グラム数円と安価ですが、世界の生産量の大半が南アフリカやカザフスタンなどの一部の国に偏っており、供給が止まると世界中がパニックになります。
アメリカのスクールバスの目立つ黄色や、道路のセンターラインの黄色い塗料には、かつてクロム酸鉛という非常に発色の良いクロムの顔料が使われていました。現在は環境への配慮から別の安全な顔料に置き換わっています。
SF映画に登場する未来のサイボーグやアンドロイドは、クロムメッキされたように全身が鏡面のようにピカピカに輝いているデザインが定番です。冷たくて感情のないメカニックな美しさを表現する最高のテクスチャなのです。