人間の骨や歯を丈夫にし、DNAの骨組みにもなる生命に必須の元素です。暗闇で不気味に青白く光る性質から発見され、かつてはマッチの材料として世界中で使われました。農作物を育てるための肥料としても絶対に欠かせない、命と炎を司るミステリアスな存在です。
17世紀の錬金術師ブラントが、黄金を作り出そうと大量の人間の尿を煮詰めていた時に、暗闇で青白く光る物質として偶然発見しました。科学の歴史の中でも特に奇妙で少し臭う発見のエピソードとして有名です。
ギリシャ語で「光を運ぶもの」を意味するフォスフォラス(Phosphorus)が英語名です。発見された当時の人々にとって、火もついていないのに暗闇で勝手にボーッと光る物質は、魔法のように不気味で魅惑的でした。
純粋な白リン(黄リン)は猛毒であり、空気中に置いておくとわずか約50度の低温で自然発火して激しく燃え上がります。そのため、酸素を遮断するために必ず水の中に沈めて厳重に保管しなければならない危険物です。
昔のマッチは自然発火しやすい黄リンを使っていたため、ポケットの中で燃え出す事故が多発しました。その後、火がつきにくく安全な赤リンを箱の横(こする部分)に塗る安全マッチが発明され、世界中に普及しました。
私たちが体を動かしたり考えたりするエネルギーは、細胞の中にあるATP(アデノシン三リン酸)という物質から生み出されます。リンの結合が切れる時に放出されるエネルギーを利用して、すべての生物は生きています。
窒素、カリウムと並んで植物が育つための肥料の三要素の一つです。実や花を大きく育てるために絶対に欠かせませんが、世界のリン鉱石は特定の国に偏っており、将来的に資源が枯渇するのではないかと危惧されています。
人間の体内のリンの約80パーセントは、カルシウムとガッチリ結びついてリン酸カルシウムとなり、丈夫な骨や歯を作っています。そのため成長期の子供や、骨粗しょう症を防ぎたいお年寄りには不可欠なミネラルです。
夜の墓場で青白く燃える人魂(火の玉)の正体は、土葬された死体から発生したリンの化合物(ホスフィンなど)が空気中で自然発火したものではないかという有力な説があります。オカルト現象を化学が解明した一例です。
リンの化合物は殺虫剤や農薬として使われる一方で、人間の中枢神経を麻痺させる恐ろしい性質も持ち合わせています。サリンやVXガスといった歴史に名を残す致命的な化学兵器の主成分として、暗い歴史も背負っています。
戦争映画やミリタリー作品では、白リンが激しく燃えながら分厚い煙を上げる性質を利用した発煙弾や白リン弾が登場します。視界を遮るだけでなく、皮膚に付着すると高温で燃え続けるという非常に残酷な兵器として描かれます。